オセローのロゴタイプにたいそう魅了された話
ほぼ毎日通る駅に、異彩を放つポスターがある。
見かけるようになってからひと月ほど経とうとしているのに全然飽きない、それどころか毎回見つめてしまう。
新橋演舞場で公開中の「オセロー」のポスターである。
出典|https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/2018_othello/
最初に目に入ったのは、褐色の肌のおそらくオセローと思われる男でも、檀れいさんの美貌でも、役者陣の顔や名前でも、ましてや音楽:松任谷正隆の部分でもなく、
鎖のように連なるカタカナとアルファベットが、不穏な空気を放っている。
ビジュアルとこのロゴタイプとがお互いをより妖しく、魅惑的にしていると感じてしまう。
もうずっと目が離せなくなって、毎朝駅で見かけるだけでは飽き足らず、松竹さんのサイトに訪れ他のバージョンのビジュアルなど調べ始める。
すると、あろうことか、横組みのロゴタイプが現れた。
出典|https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/2018_othello/
これまた目の離せぬ、息を飲む組み合わせである。
こういう組み合わせや構造をなんと表すかと考えて、「タイポグラフィ」でも「文字組み」でもなく「アーキテクチャ」というのが一番しっくりきた。
で、自分の中でふつふつと煮えくり返って蒸発しそうなこの美しさをいかにかして蒸発させずに味わい堪能するかを考えて、自分で作ってみるに至った。
百聞は一見にしかずである。
手を動かす
実際に手を動かして、まず、見ているだけのときよりも興奮が増幅した。
以下、私がこのロゴを愛でるだけのセクション。
01|フォント(カタカナ)
同じフォントを持っていなかったため「似ている」フォントを探すところから。
私が使ったカタカナは、小塚明朝B。
小塚明朝Bについて気付いたこと:
・小さい文字や長い文章には向かないけれど、ロゴとしては強い存在感を持っている
・自分自身がB(=Bold、太字)をあまり使わない(おそらく、前述の強い存在感を扱う術を自分持っていないと感じている)
02|フォント(アルファベット)
私が使ったアルファベットは、Charter Roman。
こちらも同じフォントを持っておらず、
オリジナルロゴはもう少し太いとわかるものの、
太さがちょうどよいフォントはタイプフェイス(書体、文字の形)が違っていた。
フォントリストを何往復も見て、このCharterに落ち着いた。
Charter Romanについて気付いたこと:
・起筆が角ばっている
・文字のコントラストが低い(=太いところと細いところの差が小さい)→これがオリジナルロゴと大きく違う点
・垂直線を意識している?(「t」の1画目や「e」の水平線から曲線に変わる角の部分の直線部分の長さが気になる)
03|文字間
・オリジナルロゴのカタカナは、太字の存在感に加え、文字同士の間の距離が極端にツメてある。
これが、ロゴの圧迫感や威圧感を強めているように思う。
・対してアルファベットは、たっぷりとした曲線やセリフの形に優雅さを感じる反面、
垂直線の太さと水平線の細さの差に芯の強さと繊細さの二面性を感じた。
・さながら、カタカナの「強い存在感」「圧迫感」「威圧感」がオセロー自身を、
アルファベットの「優雅さ」「芯の強さ」「繊細さ」が檀れいさん扮する女性を思わせる。
※ちなみにオセローの物語はあらすじさえも知りませんが、お許しを。。
文章と画像が遠くなってきたので再度添付。既出画像と同じもの。
04|カタカナとアルファベットのアーキテクチャ
・タテ組は、カタカナがアルファベットより15%ほど大きい。
・ヨコ組は、同じ大きさに見えるようカタカナがアルファベットよりもほんの少し小さく調整されている。
・長音記号「ー」は、タテヨコともにかなり長めに手が加えられている様子(もしくはそういうフォントを用いたか)。
・その長音記号に絡まる小文字「o」が、絶妙。
・いや、小文字「o」を長音記号「ー」が貫いていると表現する方が正確かもしれない。
・タテ組で、カタカナ「オ」と小文字「t」、カタカナ「ロ」と2つめの小文字「l」が線を共有しているのがけなげ。
・ヨコ組で、「オ と O」、「セ と th」、「ロ と l」の同じ音同士がお互いを共有しているのがたまらない。
制作者の方がこの表現にゆきついたとき、さぞ口元の緩んだことだろうと察する。
(調べたものの、どなたが手がけていらっしゃるものかは不明)
・小文字「e」のカタカナへの絡まり方はタテヨコともにクール。
起筆の細い水平線をロゴの手前に持ってくることで背景のカタカナを邪魔しないまま存在している。
さいごに
一番残したかったのは、03にて記載した、カタカナがオセローの強さを、アルファベットが女性の美しさを表しているのではということ。
両者(カタカナとアルファベット)の「知恵の輪」のような構造が、人物個々人や人間関係の複雑さを示していると思う。
そういう目でこの記事の1枚目に載せたメインビジュアルと思われるポスターを見返すと、
真白の女性の後ろに褐色の男性が重なり、その後ろで黒服の男性が赤色の糸を構えているという構図。
冒頭に書いた通り、ビジュアルとこのロゴタイプとがお互いをより妖しく、魅惑的にしていると感じてしまう。
今は褐色の男性の背面にある赤い糸が、前面に現れるのだろうか。
ちなみに、「Othello」公開は本日2018年9月26日まで。
終わるということは、始まるということ。
次の演目のポスターも楽しみである。